【十角館の殺人】感想(ネタバレ無)

綾辻行人さんの館シリーズといえば新本格ムーブメントの火付け役として有名ですが、その第一作『十角館の殺人』の感想です。

新本格ムーブメントの旗上げ

刊行された1987年当時は、名探偵がみんなを集めて謎解きを披露するようないわゆる本格推理小説が少なかったようで、この作品以降同ジャンルの様々な作家が登場したことから新本格ブームとなったようです。

今回、新装改訂版を読みましたが10年以上前に一度無印版を読んでいます。正直細かい内容は覚えていませんでしたのでどこが変わっているかはよくわかりませんでした。調べたところによると、文章表現が改められている箇所がいくつかあるようです。物語自体に変更はないため今から読む方は新装改訂版を読むのが良いと思います。

ストーリーはシンプルかつ読みやすい

登場人物も多くなく、ストーリーの進行もとても分かりやすため非常に読みやすいです。ホラー作品も多くある綾辻行人さんにしてはデビュー作であるためか軽いテイストで文章が仕上げられています。

「人間が書けていない」と評されることもあったようですが、純粋に謎や推理をメインに楽しむ作品と考えれば特に違和感はありませんでした。ドロドロとした人間関係や犯人の動機を深く考えさせられるような作品を読みたい方は別の本を読むことをおすすめします。

ミステリの中にはトリックに関連ある知識や豆知識的な情報がこれでもかと詰め込まれた作品があったりしますが、本作ではそういったものはあまりありません。これを読みやすいと感じるか、物足りないと感じるかは意見が分かれるところではあると思います。小説から雑学を得たい人には物足りないでしょう。

トリックもシンプルだが今では古く感じる

色々な作品紹介で言われているように、トリックの根幹となる一文がかなりインパクトがあります。私が初めて読んだ当時はあまりミステリを読んでいなかったこともあり、トリックにかなり驚きました。今作以降類似作品やトリックが多くの作家から上梓されていますのでそれらを読んでいる人は目新しさは感じないかもしれません。ミステリを読み始めの人ほどおすすめしたい作品です。

本格推理小説の中には読者への挑戦状がついているものもありますが、本作(館シリーズ)ではついていません。トリックや犯人の予想はつけられるかと思いますが確定する証拠や決定的な表現は無かったかなと思います。そういった意味では完全に論理だけで解けるわけでは無いと言えます。これは館シリーズ全体に言える印象だと感じていて、パズラー小説におどろおどろしい雰囲気を足したようなイメージです。

ここから館シリーズが続いていき2020年の現在でも最終巻となる10冊目はまだ出版されていません。Twitter等を見る限りアイデアはいくつかあるそうですがまだ執筆に着手はしていなさそうです。おそらく2,3年内には出版されないものと思います。とても楽しませてもらっているシリーズなので少しずつ過去作を再読しゆっくりと気長に待つことにしましょう。

【DEATH STRANDING(デス・ストランディング)】感想(ネタバレ無)

PlayStation4で2019年11月8日に発売されたDEATH STRANDING(デス・ストランディング。以下、デススト)についてネタバレ無しで感想を書いていきます。

エンディングまでクリアして、プレイ時間は100時間くらいです。

どんなゲームか?

どんなゲームか一言で言うと、『配達シミュレーションゲーム』です。

メタルギアソリッドシリーズで有名な小島秀夫監督が、コナミ退社後に初めてリリースしたゲームで、多くの注目の中発売されたゲームです。発表された当時はどんなゲームか全くわからないままであったため、不安が多くあったようですが、発売後の世間の評価は上々だったように思えます。

ストーリーは、デス・ストランディングという現象によって分断、荒廃したアメリカ大陸が舞台で、主人公サムが再びアメリカ大陸を繋ぎ直すことが目的となります。

ジャンルとしてはアクションになるのでしょうか。しかし、格闘ゲームのようにタイミングシビアな操作が要求されるわけでも、細やかなボタン操作が要求されるわけでもありません。

広いフィールドを景色を見ながらのんびり歩いていくようなそんなゲームです。難易度選択も可能なためゲームプレイが苦手な人でもプレイしやすいかと思います。ちなみに私はnormalでプレイしました。

独特で先の気になるストーリー

ストーリーについては専門用語が多く「よくわからない」状態のまま進むことになります。序盤に多くの謎が提示され、最終目的ははっきりしているのに先が見えず次の展開が気になるストーリーになっています。また、ホラーチックな演出も多くあり恐怖感をあおられます。ゴリゴリのホラーというわけではありませんが、作品全体としては暗めのストーリーです。

キャラクターもそれぞれに物語があり、各々のエピソードが語られます。声優さんの演技の上手さも相まって映画を見ているかのような気分になれます。メタルギアソリッドシリーズではおなじみのベテラン勢ですが、今作でもいい味を出しています。

「お使い」が楽しい意外な印象

デスストは配達先まで荷物を運ぶのが目的の、よく言う「お使い」を主目的にしたゲームです。これだけ聞くとつまらなそうに聞こえるかもしれません。なぜなら「お使い」という表現はゲーム評価の中では「単調」、「場所を行ったり来たりするだけ」という面白みのないことを意味することが多いからです。しかし、このゲームにおいては「お使い」(配達)が楽しく感じました。なぜなのかを考えてみると、デスストでは配達をすることにおいて以下の選択をすることになります。

  • 配達先までのルート選択
  • 移動手段(徒歩、車両等)の選択
  • 配達物以外に途中に落ちている落とし物まで拾っていくかの選択
  • 配達を妨害してくるNPC(ミュール、BT)の対応方法の選択

移動がメインとなるのこれらは当然考えられる選択なのですが、この選択することができる「自由」が楽しさの理由なのではないかと思いました。選択が多様であるためプレイヤーや配達ごとの過程を生み、単調さを無くし新しい発見を与えてくれます。

「序盤でつまらなくて止めた」という意見を見ましたが、序盤はキャラクターや世界観の説明、基本的なゲーム操作チュートリアルが多いため、先ほど挙げた選択が少ない状態だったというのも理由があるのではないかと思います。

「いいね」でゆるく繋がる

ゲームをプレイしていても至るところに「繋がり」に関する話が出てきますが、ゲーム性にもそれが表れており、デスストでは他プレイヤーの建造物に対して「いいね」を送ることができます。

この「いいね」された数は各プレイヤーごとに数値で表され、誰にいくつ「いいね」されたかがわかるようになっています。「いいね」の数は、ゲームが有利に働くような効果はありませんが、自分の建造物が誰かの役に立ったというのは何とはなしに嬉しくなります。もっと「いいね」が付くような場所に建ててみようだとか、自分も誰かに多くの「いいね」を送ろうといった気になります。

オンラインゲームでは直接的に利害が発生するゲームが主であるため、お互い特に利益の無い、この「いいね」は能動的におこなう善意のようなものです。利害関係もなく強制的でもなく束縛されるでもないので、とてもゆるく繋がりを感じられます。

グラフィックは美麗で繊細

デスストは、Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ・ドーン。以下、ホライゾン)で有名なゲリラゲームズの開発したDECIMA(デシマ)エンジンを使用して開発されています。そのまま使用しているわけではなくデスストを開発する際に小島プロダクションによって手を入れられているようです。このゲリラゲームズと小島プロダクションの協業の経緯やお互いの関係性はとても素晴らしく感じました。(ゲームに対する感想ではないですが…)

ではそのグラフィックについて、ホライゾンは色合いが絵画のようなタッチですがすが、デスストは現実寄りの印象です。序盤で出てきた苔むした岩肌は実写のようでした。小島監督がコナミ在籍時に開発したFOXエンジンを使用したメタルギアソリッド5(以下、MGS5)でもグラフィックはきれいでしたが、それ以上です。キャラクターの挙動がより自然になったと感じました。MGS5では乗り越えられそうな段差をずり落ちてしまうことがありましたが、デスストではそういったことはなく、現実の感覚と同じようにキャラが動いてくれます。雨で滑りやすくなった斜面に足をかけるとバランスを崩すなど、この辺りの感覚も現実にそこを歩いているような気にすらなります。

結局おもしろいのか?

面白かったかどうかと聞かれれば面白かったと回答しますが、万人におすすめできるかといえばできないゲームです。暗めで難解なストーリー、ある種単調にも見えるゲーム性、現実の挙動を厳密に再現した操作性、これらがとても高い完成度で作られています。随所に小島監督の細かいこだわりが見られるので、そういったこだわりが好きな小島ゲームファンの期待は裏切らないかと思います。しかし、激しいアクションが好きな人や、メタルギアソリッドシリーズのようなゲームを求める人には物足りないものがあるでしょう。

クリア後もやり残したことをやっていますが、自分なりの目標を持ってプレイすると新しい発見がありまだまだ楽しめそうです。